古今東西の名作は何度読んでもその都度新しい発見があるが、この作品もやはり奥が深い。
初めて読んだのは十代の後半の頃。それまでぼんやりとしていた「マゾヒズム」という言葉が。明確に意識され初めた頃でもあり、なんだか猛烈に勉強してみたくなって、運命と言おうか必然と言おうか、この作品にたどり着いた。
谷崎の
「痴人の愛」は中学の時に偶然読んでいたがこの「毛皮を着たヴィーナス」は
気合いを入れて 読んだのを覚えている。
もうそれ以来座右の書として僕の本棚に君臨し続けている。
普通の文学としても優れた作品。しかしそういう意味ではマイナーになってしまうのだろうか。今時の恋愛小説にしてはインパクトに欠けるだろうし、SM文学として見ても素朴な部類に入る。だけど、マゾヒズムに少しでも関心がある人であれば、自分なりの作品世界を豊かにイメージして楽しめる。
SM的なコミュニケーション・ツールとしての愛読書にふさわしい。
やはりときめいてしまうのは、主人公の二人、ワンダとセヴェーリンが取り交わす奴隷契約書の部分。SMの世界においては、奴隷と主人のような疑似的関係をファンタジックに想定するプレイがよく行われる。そこには明文化されていない「奴隷契約」のようなものが存在する。また、プレイの重要なアイテムとしてきちんと明文化したものを作成し、署名・捺印したりするカップルも存在する。
最近主催者が交代したSMサークル
「甘美会」のサイトで
その実例がいくつか紹介されている。それらのテンプレートはこの古典的名作の中に見いだすことができる。直接ではないにしても、現代にも継承されているコンセプトの萌芽がここにあった。
普通の書店にたいがいおいてあるはずだが、今発売されている表紙にはナゼか
金子國義のカバーが採用されていないのが残念...
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Sardaxがこの作品の挿し絵を習作的にWebで公開している。

有名な奴隷契約を交わすシーン。

壁にある絵は
「サムソンとデリラ」のワンシーンと思われる。

現在入手できる文庫本