
久しぶりに顔面騎乗をしてもらった。
もっと厳密に言うと「させられた」と言うべきか。その時に本当は望まない状況だったにもかかわらず、やむにやまれず、やらざるを得ないようなことになってしまった。
とはいえ、そういう「設定」こそが逆説的に望ましいという、高度にマゾヒズム的意識を高揚させる成り行きではあった。そう、途中までは...
詳しい経緯は省きますが実に数年ぶりの、ある意味では待ち焦がれていた顔面騎乗。緊張しすぎて思っていたほど気持ちの高まりはなく、興奮というよりも頭はテンパり、勃起すらしませんでした。
顔面騎乗へのこだわりというものを、第三者にそう簡単に理解してもらえるとは思っていません。口で言ってすぐに伝わるほど僕の場合は単純ではないのです。それでも絵でみて「なるほど、こんな感じか!」と、なんとなくある種のメッセージが伝わりやすいのが、春川ナミオの描く世界でしょう。顔面騎乗という曖昧なコンセプトを誰かに説明するのにこれほど適切な媒体は他にないと思う。
だから彼が描くようなイメージを、なるべく忠実に再現してみようとして、そのイラストの中からやってみたいポーズの作品を何点か選び、参考資料として女王様にお見せした。

女王様も僕の希望を理解してくれて、実際にまね出来そうな体位をピックアップし、条件としてはかなり理想的な環境でこの顔面騎乗をテーマとするセッションは行われた。
しかも今回お相手して下さるのは、何年も前から憧れ崇拝していた、僕にとってはアイドル的な存在のミストレス。
その女性のお尻がいま僕の顔の上の乗っかっている!
奇蹟だ。あり得ない。
長年の
夢 だったことが今まさに
実現 されている!
Dream come true.
つかのまの恍惚。
うっとりとするまもなく、自分が思い描いていたものとは違うキビシさに、僕は戸惑うことになる。
春川が描くフォルムとしての非現実性を分かっていなかったがために、予想をはるかに超えた身体的苦痛に愕然とする。それより何より、突然態度が豹変した女王様がいつになく暴力的で、勢いざま後頭部を強く打って軽い脳しんとうもおこした。状況判断もままならず、様々なことをさせられる流れの中でのリアクションにまごつき、ビンタされ、想定外の展開に怖くなってしまう。
「苦痛と快楽」「官能の美とエロス」がテーマの、わりあいと目的意識のはっきりしたセッションのはずであったが、これではダメだ。
それに得体のしれない危険も感じた。
もう止めよう。すぐにそう思ったがどうすればいいのか迷った。
僕はヘタレだし、かなり臆病なMです。いや、Mですらない仮性マゾなのでした。からだは丈夫なほうではなく、精神的にはもっと弱い。
だから万が一の時のために、それを言えばプレイをストップしてもらえる「セーフ・ワード」(プレイ中止の合図の言葉)を事前に女王様ときちんと決めておいた。でも、少しぐらい辛かろうと、それは使うまいという覚悟では臨んではいた。
女王様も僕にそれを言わせるほどハードなことはしないであろう、と思っていた。
甘かった。
情容赦ない圧迫責めに、僕は呻き声を上げることすらできず、鼻もアゴも激痛で官能のロマンどころではない。何度も窒息寸前のギリギリのところまで追いつめられ、これ以上はもう耐えられないというところにきて、ついに言いたくなかったそれを言ってしまった。
絶叫に近いお約束のセーフ・ワードが部屋中に響きわたる。
ところが女王様はなぜか解放してくれない。さらに力強く、激しい責めが続く。僕が本気だと思われなかったのかもう一度セーフ・ワードを叫んだのにやめない。
「やめてあげなぁ~い (^^) うふふふ・・・」 すでに嫌悪感と恐怖心でズタズタの僕を、女王様は笑いながらさらに弄ぶかのように執拗な責めが続く。NGにしていたCBTが始まった。
このような展開に歓喜するマゾもいるだろう。だが僕はギブアップのサインを確実に伝えていた。
SMの世界ではずっと第一線で活躍してきた信頼性の高いドミナだっただけに、人としての最低限のモラルをないがしろにされたショックは大きい。
もうヤメろ! って (-_-メ) なかば逆ギレして叫ぶと、ビクッと驚いたようにやっと力がゆるんだ。
つい高飛車に怒鳴ってしまった。
これだけは絶対にしたくなかったことだが時すでに遅し。
気の毒なことをした。わけがわからない。もうどうでもいいや。
SM経験の浅い僕に、理想と現実は違うのヨとでも言いたかったのだろうか。
そうだとしても、その女王様が理想としていたはずの
コミュニケーションとしてのSMは成立していなかった。
その必要はないと判断されたのだ。僕の投げたボールは受け取ってもらえず、投げ返されない。受け手不在のボールは床にころがったまま。僕はそれを拾い、一人で壁にぶつけるキャッチボールをする。
正味30分足らずの、彼女に言わせれば「ユルい」セッションだったのかもしれないが、僕にとっては控えめに言っても虐待ものだった。
セッション終了後、その女王様はかなり手加減していましたと言う。
「介護SM」だとも言ってくれた。そのサディスティックな笑顔は相変わらず眩しくて美しい。何も言えなかった。
メッセージの発信者と受け手のこのギャップこそが、現実と理想の乖離なのであろう。
それまでの僕にとってSMはリアルではなかった。現実社会のディティールを剥いだところに成り立っていた。しかし彼女にとってSMは現実なのである。僕はそのリアリティを彼女とほんの一瞬でも共有できたのだと思いたい。
この女王様にはとても感謝している。僕の要望どおり彼女なりにベストを尽くして協力してくれた。見方を変えれば、このセッションは僕が仕組んで、わざと不器用な反応をしてM男側が流れをコントロールしていたように見えなくもない。僕が彼女のリアクションを引き出した。憧れの女王様にここまでやらせたのだから、M男冥利に尽きると言わなければ失礼になるだろう。プレイはキツかったけど好意的ではあったのだ。
ひょっとすると彼女は僕のボールを受け取り、投げ返してくれていたのかもしれない。
僕が受け取れなかった?
そうかもしれないが、少なくとも僕が受け取りやすい投げ方ではなかったように思う。僕には難しい球だった。ストレートでなく変化球だったのかもしれない。受け取り方は人それぞれでいい。たまたま受け取れないことだってある。ボールを拾ってもう一度彼女とキャッチボールが出来るだろうか。
いずれにしても、どのような状況であれ、セーフ・ワードを無視された時点で僕は壊れてしまった。肉体的にも、そして精神的にも。
これはトラウマとなり、今後は二度と顔面騎乗ができそうにない。しばらくは心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩まされそう....
夢 から目が覚めた。
何か大きなものを失ったような気がしたが、得たものも大きい。
理想と現実は違う。冷静に考えれば当たり前のことか。
しかし、理想を追い求めるばかりで、経験しなければ気がつかないこともある。
そういう意味で、この顔面騎乗には意味があった。

夢をもっと、見続けていたかったような気がする...
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