
随分昔の話になりますが、緊縛の不得意な女王様が僕を相手に練習したいと言うので縛らせたことがあります。
当時僕は、緊縛に全く興味がなく、経験もありませんでした。
女性の緊縛された姿は美しいけれど、男のそれは醜いと思っていた。
醜くて惨めな姿がマゾヒズム的によいのだという声もあるでしょうが、僕にとっては拘束されることの恐怖や違和感の方が大きく、当時は絶対にNG項目にしていたのです。
ただ、その女王様のことは気に入っていたので、ちょっと冒険してみることにしました。
彼女の不器用な段取りは興ざめでしたが、必死でもたつく女王様の姿がなんともかわいらしく見えて、それはそれで興奮したのを覚えています。
全然ユルユルで拘束にも緊縛にもなっておらず、手首も関節も自由に動く状態でしたが、
「もういいわ。ギチギチに縛られたつもりになってご奉仕して」 とその女王様はちょっとすねたように言いました。
そういうことがあってから、僕は縛られてもいないのに、見えない麻縄やボンデージ器具で拘束されているフリをして調教を受けるというやり方を一つのスタイルにしました。
ギチギチに縛られて身動きできないのがいいというのも頭ではわかるし、「縄酔い」と呼ばれる現象が起こるのも知っています。
しかし、この
「エアー緊縛」に僕は新しい魅力を感じた。
ショーなどで縛られているプロセスを見せる場合をのぞき、受け身でただ縛りが完成するのを待っている時間に虚しさみたいなものを感じていたし、何よりもエアー緊縛の方が、奴隷側に大きい負担やスキルが求められ、服従の気持ちや忠誠心を示すのに適しているように思えたから。
その後、女王様との心理的距離感によって縛られることへの嫌悪感もなくなり、縛られている時間を「責め待ち刻」として楽しめるようになってからは、僕の考え方も変りました。
それでもたまに海外のBDSMシーンでM男さんがいかにも縛られているような格好で上手にプレイしているのを見かけると、FemDom的な意味では日本より欧米の方が洗練されているように感じ、またエアーでやってみたくなります。
今の若い女王様には緊縛に興味を持っている方が多いようです。
映画「蛇と花3」も公開され、縛りや縄師さんへの注目も高まっている。
つい最近も、デビューしたてのあるミストレスとフェティッシュ・バーでお会いしたのですが、彼女は美大生で彫刻を専攻しており、緊縛をある種の造形美としてとらえる美意識には驚かされました。
SMを最初から芸術的な目線で見る感覚。
背徳でもエロスでもない健全なまなざしは、ニュースタイルというよりはもう全くの別物になっているようです。
こういう女王様とエアー緊縛のセッションはできないだろうし、まして顔面騎乗なんて絶対にしてくれそうもありません。
とりあえず iPadで「顔面騎乗に花束を!」のワンシーンを見せて、僕のこだわりを紹介してみましたが、あまりピンとこない表情で、
「エアーで顔面騎乗してれば?」と言われてしまいました。 (>_<)