
イギリス在住の Sardax氏のブログで、
春川ナミオさんへの追悼記事が投稿されました。
若い頃から春川作品の影響を受けてきた彼ならではのオマージュ。心に染みる。
それにしましても、中世からルネサンス期の西洋絵画には、王侯貴族やローマ教皇などに依頼されて描かれた作品があり、教会の祭壇画や壁画、天井などにも見られます。そして裕福な市民も、自室に飾るための絵を高名な画家にお願いして描いてもらう。

この依頼主をパトロンといい、こうした流れのことをコミッションと言います。
ミケランジェロやラファエロなど、 ルネサンス時代の巨匠はそのような条件のもとで、偉大な作品を残しています。
Sardax 氏は、世界中のマゾヒストからの依頼を受けて、彼らの好む
「Femdom Art」、つまり依頼主であるパトロン(マゾヒスト)が女王様によって虐められる姿を描いてきました。Sardax 氏の作品群が、実に多彩で豊富なイマジネーションの宝庫であるのは、そういう背景もあるのでしょう。もちろん、彼自身の才能と創造性も関係しています。
僕が初めて
Sardax の作品に触れたのは、日本のメディアにおいてでしたが、その時は彼が熱烈なる春川ファンだとは知りませんでした。
雑誌「Mistress」の読者投稿用ページに掲載された作品
当時よく目にしていたSardaxの作品にはモティーフが顔面騎乗というよりも、鞭やFemale Domination、女性支配と男性服従的構図や心理的マゾヒスムが描かれる内容が多かった。後に発売される Sardaxの画集の中で、春川氏への敬愛とインスピレーションを受けたというコメントが記載されていたのを知り、少し不思議な気がしたものです。
そうであればと、当時メールでのやりとりだけのご縁でしたが、厚かましくも僕が企画し、監督した「顔面騎乗に花束を!」のDVDパッケージに使えるイラストを Sardax 氏に依頼したのでした。
彼は快く承諾してくれ、しかもノーギャラで描いてくれたのがこの絵です。

描かれているのは主演女優のみづきさんではなく、実は当時別のコミッションでモデルをしていた Mistress Lubyanka 嬢。
その依頼主の承諾を得て、日本で発売されるDVDへの使用が認められるという流れの中、僕のコミッションについてはチャラというか、ギャラが発生しなかったのです。
この絵の右下の方、Lubyanka 嬢が左手で観ている画集にご注目下さい。

そこには、僕のお気に入りの春川作品があしらわれている。
これも、先
日ご紹介した北川プロの隠し文字ならぬ「隠し絵」みたいなやつで、ルネセンス期の西洋絵画やフランドル派の宗教画などに見られる手法。
この絵が僕の依頼でも描かれたという証のようなもので、とても嬉しく感じたものです。

というよりも、Sardax の春川さんへの敬意という意味が大きかったでしょう。
このお二人は、絵に対する情熱と知性が融和した技法という点において、偉大なアーティストだと思う。
多くのFemdom アートでは、画家自身の独特の趣味性が反映されるものです。
春川さんがまさにその顕著な例で、出版社の意向や物語の挿絵という制限で描かれてる場合ですら、自分自身の好きな世界を好きなように、そして好きなだけ描いてきた希有な画家でした。
その春川さんだって、雑誌編集部とのコミッション関係には留意している。
そういう意味で春川ナミオさんも、ミケランジェロやラファエロ同様、いや彼らを越える偉大な芸術家として後世に名を残します。
依頼主の意図やコンセプトを凌駕するハイクオリティな普遍性に、芸術の光は輝き、観るものを圧倒する。
理屈抜きで、一度観たら忘れられない光景とその筆致。
それはキリストの受胎告知や、印象派絵画の点描画法と同じく、時と空間を越えて多くの人々に共感を与える全人類の宝と言えるでしょう。
■ 春川ナミオ概論序説