ちょうど去年の今頃、フランスで
現代日本エロティック・アート展が開催されていた。
昨年もこれを
紹介したけれど、当時は相当過激な展覧会として話題になっていたらしい。最も注目を集めていたのが
室井亜砂二 の「女犬」シリーズ。
昨年パリに留学していた知り合いの学生さんによると、同世代のパリジェンヌに
「日本の女性って、あんな風に 犬みたいに扱われることが好きなの?」 と聞かれて困ったそうである。
この問いかけが
「日本の男は、女性を犬のように扱うのが好きなのか?」というものにならなかったところが、興味深い。
このことが
室井亜砂二の作風のマジックを表している。男のギラついたエロではなく、女性のやわらかいマゾヒズム願望が巧みに表現されているからではないだろうか。

日本女性は世界的に、つつましく男性に従順な大和撫子という評判がいまだに根強い。数年前にスゥエーデンの女子大生をホームステイさせたことがあり、歓迎会で寄せ鍋をした時のこと。彼女は率先して鍋奉行を演じ自分はあまり食べない。ひたすら同席者の取り皿の状況に気を配っていた。
「あなたはゲストで主賓なんだからそんなことしなくていいのですよ」と英語で言うと
日本では女性がこれをやるデスね ^^ と無邪気に日本語で返してきて驚いたことがある。この彼女はたまたま日本語と日本文学を専攻していたのだが、ある程度教養のある外国人は、日本での女性の(伝統的な)ポジションをよく理解している。
正確な事実ではないにしても、性的な場面で男から奴隷のように扱われるのを好む日本女性のイメージがこのエロティックアート展で広まったような印象がある。
ウソのようだがこれだけネットが発達した現代においてさえ、ヨーロッパの片田舎では、今でも刀をふり回す日本人がいると信じている素朴な人々がいるぐらいだから、そのような(不名誉な?)評判も仕方がないのかもしれない。アニメのおかげでオタクやポケモンは有名になったが、相変わらず黒澤明や小津安二郎の映画で日本のイメージを取得している外国人も多い。日本女性にもちょいS女が存在することやドSブームのことはあまり知られていないようだ。
日本のSM的な状況は確かに、S女よりは
M女、M男よりは
S男 が主役。
すなわち
男性サディズムと女性マゾヒズムの組み合わせ が主流と言えるだろう。マニアの間でさえ団鬼六の作品の方が沼正三よりはポピュラーだし、出版や映像関係でも女性緊縛写真がよく売れている。

奇譚クラブでも男性マゾヒズム願望を満たすイラストは稀少であった。
春川ナミオは例外なのであって、少数派のM男は
室井亜砂二の描く女犬を自分の姿に投影させて「萌え」るしかなかった。
現代日本エロティック・アート展でも、少女が虐められる図が多く出品されていた。というかFemdom 的なものは全くなかった。パリで国際的に成功した展示会は、男尊女卑という伝統的な日本文化のグローバル化に貢献して幕を閉じた。
しかし、S男向けに撮影された女性緊縛写真に感じ入るM男がかつていたのと同じように、フランスでこれを見た西欧人の中にも、日本的男性マゾヒズムやFemDomの価値観に目覚める人々もいたに違いない。
そのような
変態的な異文化交流としての意義はあったとのではないか思う。
「責待刻」(「女犬ノ絵本」より)室井亜砂二のサイト・犬屋哀玩堂Female Domination 的「男犬」イメージ

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