
この絵は、Mr.Sardax 氏の最近の作品ですが、
彼のブログによれば、昨年亡くなられたあるマゾ紳士とそのプライベート・パートナーであり、ニューヨークのプロ女王様、
Mistress Michelle Lacy さんの肖像画として制作されたものだそうです。彼らのコミュニティーの親しい友人たちがコミッション費用を募って、哀悼の意を込めてSardaxにこの肖像画制作を依頼しました。
そういう事情を知らなくても、この絵には、何か心あたたまる詩情を感じざるを得ません。
モデルのお二人はニューヨークのBDSMスタジオでセッションを共にしていました。窓の向こう側にも同じような、見覚えのありそうな陰影が見えます。
そうした、おそらくはかつて活気に満ちていたであろう雰囲気を背景に、しとやかな場面として描かれている。
ただ、描かれている男性は、もはや帰らぬ人。
きっと、Sardax の絵のファンだったのでしょう。
描かれている彼の所作は、Sardaxの筆致そのものです。
まだお若く見えますが、もしかしたら美化されて、実際はご高齢だったのかもしれません。
こうした、諸々の絵の向こう側にある「見えない背景」や知識、情報は、作品の観賞、解釈にもやはり、大きく影響します。
それらを知らずに見るのと、知ってから見るのとでは、大きな違いがある。
この作品は、死を直視した美を描いた希有な Fem-Domアートになりました。
彼は女王様に恭順の意を現し跪いて、彼女の差し出す手にキスをしている。
彼女が腰掛けている木箱の中には、いろいろな秘密道具がしまわれているのでしょうか。
多くの鑑賞者にとって、見知らぬ故人のプライベートな肖像画に前向きな関心を持つことはないだろう。
しかし、少なくとも近代絵画においては、肖像画のモデルというのはすでに帰らぬ人であることの方が多い。
死を越えて、失われた時を示唆するかのように、静かな時間が、永遠に続いていく幻惑を見せてくれるこの絵は、僕の心を激しく打った。
紛れもなく優れた、美しい芸術作品です。
故人のご冥福を、謹んでお祈りします。
■ 春川ナミオさん、逝く
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Sardax氏の絵を敬愛する方に献上するのは夢ですが、今見たら一見さんお断り状態のようで...唯一無二の方だけにそうなるのも当然ですよね....
故 春川氏は画風的に受注制作などされていなかったのでしょうかね...