久しぶりにイヴ女王様と再会した。

縄師、または緊縛師と呼ばれる人たちがいる。 女性を縛るプロフェッショナルで、普通は男を縛らない。そして主に男社会の世界だ。
もし厳密にこの道の歴史を遡るとすれば、戦国時代かそれ以前、武士道よりも古い兵法、柔術、捕縛術などにまで行きつくのであろうか。日舞や茶道と同じく様々な流派があり、竹内流、八重垣流、方円流などが現在でも知られている。一般的に罪人縛りとも呼ばれる技術は、捕らえて拘束するための「早縄」と、護送や取り調べ、そして拷問などのために用いられる「本縄」という二つに大別される。これらは武術の一環として長い歴史の中で発展してきた。したがって日本独自の文化としての緊縛術が古来からあり、今のSM界で言うところの「緊縛」とはやや趣が異なる。

現在につながる緊縛術の直接のルーツはおそらく
伊藤晴雨の責め絵を皮切りに、戦後の奇憚クラブやSM雑誌に端を発する。奇憚クラブの編集者にして責め絵やFemdomアートも描いた
須磨利之は昭和20年代の後半、女性緊縛写真の撮影現場ですでに縄師としても活躍していた。須磨は晴雨の責め絵から独学で緊縛を研究し、いかにして美しく、そして羞恥を引き立てるような縛り方ができるのかを追求する。どのように縛ると女は恥ずかしい表情をするのか。最高の羞恥心を引き出すポーズは? 見る者を興奮させる緊縛スタイルとは? 罪人縛りのような実用性ではなく、見た目の美しさという見地からの緊縛術、縄の道を模索していたのである。
こうした流れの中でプレイを意識した縛り方も同時に発展していく。痛くない縛り方や気持ちのよい縛り方といったものも独自に開発された。苦痛と快楽のせめぎ合い。時として縄師は調教師などとも呼ばれ、縛られる女性と一体となり、その両者の信頼関係が美しいコラボレーションとなり観客を魅了する。
縄師とは、愛で拘束して緊縛美を演出する芸術家と言える。
「
女は縛られると美しくなる」とは伊藤晴雨の言葉。近代日本に緊縛美の革命をもたらした初代縄師の生命は、須磨利之や濡木痴夢男に受け継がれ現在も脈々と息づいている。

その後継者の一人が飛室イヴ女王様だ。先日札幌のSMラウンジ
BARBARで行われた緊縛ショーをみて、日本の伝統美のようなものをあらためて感じた。
イヴさんの直接の師匠は雪村春樹という有名縄師だが、濡木や明智伝鬼など戦後第2世代の一流緊縛師の仕事ぶりを、彼女は様々な現場で目撃してきた。それらの技術は手取り足取り教えられたものではないにしても、明らかにイヴ女王様のパフォーマンスにその思想が生きている。
SMクラブの女王様がM客を縛るのとはワケが違う。レベルが違う。格が違うのである。
昔はストリップ小屋で「残酷ショー」などとも呼ばれ「添え物」的ポジションに甘んじていた緊縛の芸が、独立した人気演目にのし上がってきた背景には、SMの大衆化やサブカルチャー台頭の影響もさることながら、イヴさんたちのような職人の地道な活動も見逃せない功績であろう。
「ポルノ化したSM」に見切りをつけて第一線から身をひいた濡木痴夢男のような人もいるが、伝統芸としての緊縛美を後世に伝えようとうする動きは着実に実を結んでいる。
札幌でも若い緊縛師の卵がこの世界の頂点を目指してガンパっている。イブさんに東京から同行してきた付き人の新人女王様はポスト氷室イブを思わせるカリスマ性で輝いていた。
緊縛とは変態の趣味ではなく、芸術としての価値があることを知る人は少ない。「縛りたい男」と「縛られたい女」の狭い世界ではなく、「鑑賞する」という目線で、もっと多くの人に注目されて欲しいと願っている。

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後ろの壁にかけられた無数の縄がまたたまりません。
こういった技のある方々に是非緊縛を(文化としても)末永く継承していただきたいものです。
素敵~(*`q`*)