足の踏み場もないほど混雑したフロアの真ん中には、あるのかないのかわからないような花道がこしらえられており、細い道のようだがそれはステージも兼ねているのだろう。怪しげなマスクを付けた人物がその花道で鞭を打ち始め、ショーはスタートした。
シェークスピアの仮面劇を思わせるような演出。芋を洗うようなステージの周りは観客と役者が一体となり心の距離感が取り払われる。ちょっとフェチな出し物が終わると、歌舞伎の引き抜きのような展開で仮面の人物が赤いコルセット姿に早変わりしてマイクを握りしめた。
朝霧リエその人だった。
「本日はたくさんの方々にお越しいただきまして、ありがとうございます」
SMクラブのイベントとしては、異色な部類に入るだろう。そもそもSMクラブとしての存在自体が異色とも言える
Domina School LaSiora の肝いりで行われたフェティッシュパーティー
Alice & Queen's Wonder Night Party に昨日行ってきた。
ちょうど1年前、ラシオラの摘発と
朝霧リエさんの逮捕という衝撃的なニュースが流れ、多くのファンを悲しませた。世間的には散々叩かれ、朝霧さんも実名で一般紙に報道されてしまう。しかし、その後秘かに復活を果たしていた。謹慎的な意味あいもあったのかもしれない。その再スタートはしめやかに行われ、一端は離れたミストレス達も復帰し、ラシオラは見事に再起動していた。
この
イベントは形式的には
Baby Doll TOKYOというブティック主催のファッション・ショーであるが、モデルとしてキャスティングされているのは全てラシオラの女王様達(とその周辺のM男さん)
そしてこれは、事実上のラシオラ復活宣言でもあった。朝霧さんのオープニングの挨拶に、おそらくは彼女自身も感無量といった心境で述べたであろう感謝の言葉に、この日の顔見せ興行の自負と喜びがにじみ出ていたように思う。
朝霧さんは「幸せをいっぱいもらいました」と、少女のように言っていた。
気のせいか、涙ぐんでいるようにも見えた。
花道にズラリと並んだラシオラのドミナたち。それを暖かい視線で見つめる観衆。若い女性が多く、歌舞伎町のストリップ劇場で行われるSMイベントとは比較にならないほど上品だ。男性客の多くはラシオラの会員と思われる。初老の紳士や外国人。若い男もイケメンばかり。僕のような古いタイプのマゾヒストには、場違いな負い目をどうしても感じざるを得ない。
だが僕はなぜか愉快だった。純粋にラシオラの復活にお祝いの気持ちがこみ上げてくる。あんな事件はまるでなかったかのように、舞台上でところ狭しと無邪気に跳ね回っているドミナたちを見ていると、変なコンプレックスでいじけていた自分がアホらしくなってくる。
ふと隣にいる女性に若いイケメン男が突然アプローチしてきて、なにやら盛り上がっていた。そしておもむろに「仲間に入りませんか?」と彼女が話しかけてきた。そのなめらかさにちょっとびっくりしていると、「M男さんですか?」ときた。こういうイベント会場ならではの会話だろうが、絶句してしまった。
「はい、そうです!」 とは、言えなかった。
どう返していいものか戸惑っていると、
「こちらの人がぁ、M男になりたいんですって。何かいいアドバイスしてあげて下さい!」と、掲示板のカキコのように言う。
将来有望な20代の若者に、「いいマゾのなり方」をどう伝えればいい?
いやそれよりなにより、そんな方法がそもそもあるのかどうか知らんって。
(ていうかまぁ、そんなこと人に聞くなっちゅう~の!)
プロ野球選手や飛行機のパイロットじゃあるまいし、将来の夢みたいにマゾのなり方を考えるなんて、いい時代になったものだと思う。
人間が何をなすべきか、なさざるべきなのかということを気に留めていてもしかたがない。したいことをすればいい。それが可能なことを楽しめればそれでいい。
ここに集まる人々は、SMというキーワードで結びついている。真性の人も興味だけの人も、妙な負い目や劣等感は全くなく、ごく自然にSMを楽しんでいる。なんだかそれが僕は嬉しかった。
不死鳥のように再生したラシオラもいつかはなくなってしまうのだろうか。今日会った人とは二度と会うことはないのかもしれない。この世は無常だと言う。常ならざるものは無い。
それでもはかない一瞬を楽しむことができるなら、それは幸福なことだと思う。
苦しみもあれば、楽しみもある。人生はまさに「苦痛と快楽」の繰り返し。
そういうことをしみじみと考えさせてくれる、いいパーティーだった。
どうでもいいか、そんなコト。
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とは言いますが、ラ・シオラのような
異次元空間のような店はずっと存続してて
欲しいです。
あの超高級マンションの廊下も、
あのプレイルームも、あの受付も全てが
パノラマ島でした。
「いいマゾのなり方」は笑えますね。
聞かれたら困るな~