オーストリア皇妃エリザベート

この絵はわりと人気があって、昨年東京でも公開されたばかりなのでご存知の方も多いでしょう。
現在、
京都国立博物館で3月14日まで開催中ですので、お近くの方はぜひご覧になってみて下さい。
僕にはとても思い出深いというか、
ティツィアーノの「鏡に向えるヴィーナス とならんでお気に入りの絵画作品のひとつなのです。
沼正三が「ある夢想家の手帳から」の冒頭で紹介している作品。
初出はもちろん「奇譚クラブ」です。
第1章「夢想のドミナ」で、マゾヒストが憧れる女性のイメージの論考が展開されますが、このエリザベートに関する言及はほとんどありません。
ただ、さりげなく絵が掲載され、小さなキャプションの中で
「...ヨーロッパで一番美しいプリンセスといわれ、また乗馬を愛して「騎馬皇后」と称されたが暗殺された。
コクトーは『双頭の鷲』の女王のモデルにし、
彼女の「驕慢、艶美、激情、勇気、優雅、 宿命感」を属性として与えたと書いている...」
とだけあります。
古今東西の芸術作品やサブカルチャーの断片を、本文に関連する「つかみ」として引き合いに出してくる沼さん得意のペダンチックな手法。
この絵のことを知らなくても特に支障はないものの、知ってるともちろん内容理解に深みが増す仕組みです。

エリザベートの
馬術への情熱に関するエピソードを知るだけでも、なんとなくゾクゾクするものがある。
たんに美貌に恵まれているばかりでなく、身分も高く、志も気高い。
全てにおいてパーフェクトな女性の前ではどんな男もマゾヒストになってしまう。
マゾは鞭や顔面騎乗を好む変態ばかりと思われがちですが(実際その通りだが)、
純粋に高貴なる女性への憧れの気持ちもあるということを、
日本最大のM男で「家畜人ヤプー」の著者である沼正三は主張する。
そんな変態に紹介されては、いい迷惑だ! とノーマルで健全な美術ファンは憤慨するでしょうか?
絵が好きになるのに理由は必要ありません。眞鍋かをりを好きになってしまうのと一緒です。
しかし、「ただ好き」なだけじゃその魅力を伝えられない。
そのアーティストの属性や歴史、なぜ自分に強く訴えかけるものがあるのかを理解するのは、
己の内面構造の露骨な反映であることに気づきます。
芸術鑑賞の意義は人間の真実を知ることで、自分も深く豊かになることだと思っています。
沼さんは自分にとっての普遍性(マゾヒズム)を通じて、その美の魅力を僕に教えてくれました。
明日の8日(月)午後10時25分から、「怖い絵」などの著書で知られる
早稲田大学の中野京子先生(西洋文化史)がNHKの番組でこの絵を取り上げます。
どんな切り口で解説されるのでしょうか、楽しみです。
◇ 知る楽 探究この世界 “怖い絵”で人間を読む 第2回「美の呪い」 ハプスブルク帝国の美しき皇妃エリザベート。身長170センチ、体重50キロ、ウエスト50センチ。端正な顔立ちだけでなく、スーパーモデルなみのプロポーションだ。今回の「怖い絵」は、エリザベート28歳のまばゆいばかりの姿をとらえた肖像画。なぜ、この絵が「怖い」のか?そこには、エリザベートを生涯捉えた「美の呪い」がひそんでいた。
本放送 2月8日 NHK教育午後10:25-10:50
再放送 2月15日 NHK教育午前5:35 -6:00
・・・ m(_ _)m
↓

エリザベートの別の肖像画
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