
日本三景や三名園のように、日本人は昔からなんでも3つに決めたがる。
SMの世界でも、
伝説の3大マゾ男性 がいるといわれてきた。
その3名とは誰で、いつ、どのようにして決まったのか?
決められたというよりも、SM関係者なら誰しもが認め、知る人ぞ知るというM男ベスト3。
これは長いあいだ、ごく限られたSMコミュニティーだけの口コミ情報として語り継がれてきた。
ところが最近、ある紙媒体でついに公式記録として白日の下にさらされてしまった。
季刊誌レポ は、元国連職員や裁判員経験者など、有名無名のライターが寄稿する一般雑誌。
昨年の秋に創刊されたが、どう見ても一般受けしそうにない奇妙なメディアである。
読者層には、間違ってもヘンタイや、SM愛好家はいそうにはないのだが....(俺をのぞけば)
これに連載中の「その時、歴史が鞭打たれた」という誌面で、日本を代表する著名なM男3人が一同に会し、自らのM遍歴と男性マゾヒズムの裏事情を明らかにしている。
よくあるM男の告白手記とは異なり、たいへんインパクトの大きいスクープだ。
言うまでもなく歴史というのは、より大勢の人びとに知られることによって永遠の生命を得る。
それまで羞恥の闇に葬りさられていたM男性の謎と秘史が、まさに鞭打たれたかのごとく雄叫びをあげ、マニアの枠を越えた一般社会に初めてその姿を現した。
寡黙な歴史的マゾヒスト達の重たい口を開いたのは、元女王様ライターの
早川舞。

若くして引退した女王様時代の早川舞ちゃん あの摘発 以前ぐらいまで
ラ・シオラ でドミナをしていたが、現在は新宿
アマルコルド のミストレス。
元女王様が言葉責めよろしく、M男に恥ずかしい過去を無理やり言わせているのではない。
さながらNHKのドキュメンタリー番組のごとく、緻密な構成でひきこまれる。
企画としては画期的で「文芸春秋」か「諸君!」あたりでも充分通用する内容だ。
しかし、立花隆や池上彰が取材していたら、けしてこうはならなかったはず。
普通、SM関係の人間が自分の経歴などを第三者に話す場合は非常に用心深く、言葉を選ぶ。
一般公開を目的としているならなおさらだ。
聞き手との距離感によっては、公開された文章を読む側のストレスも大きくなりやすい。
ここでは聞き手が女王様ということもあり、話者の打ち解けた親近感も手伝ってか、リラックスして読めた。
戦後のSM文化を牽引してきた重要なキーパーソンの思想や逸話は、示唆に富んでいる。
本来タブー視されているキワドさを感じさせないユルい文体がまた効果的。
これを読んでいて、ふと懐かしい感覚の里帰り現象が起こった。

DVD
「顔面騎乗に花束を!」の中に、みづき桃香さんがM男にインタビューする形式のトーク番組を僕は入れた。この映像を編集していて、みづき女王様が普通の口調で、というよりも、敬意と親しみを込めて
えいちゃんからM男の本音を上手く聞き出していたのを思い出した。
この時と似たような雰囲気が、三大M男の取材現場にもあったのかもしれない。
SMクラブの女王様経験者による取材だからこそ成功したルポルタージュであり、三人のM男は胸襟を開いて実にのびのびと語っている。
おじいちゃんが、遊びに来た孫娘に聞かせるむかし話のような 時おりピントがぼやける文章は、SM関係のルポにしてはマッタリしていてむしろ微笑ましい。

早川舞がSMクラブの女王様としてキャリアを積んだのは平成の時代に入ってからだが、
昭和ひとけた世代の
M男の戦後の黒い霧 を晴らすのにはやや力不足だったようだ。
もしかすると彼女の巧みな話術が、不鮮明なマゾヒズムの本質にも迫る展開を生み出していたかもしれないのに、SMとは無縁な一般読者の肺腑を突く筆致にまで至らなかったのが惜しい。
まぁ、こうした腰の引け具合がこの雑誌のウリなのだから仕方がないであろう。
立花隆がやるように、対象をまる裸にしてしまう突っ込んだ切り口ではM男が気の毒だし、こちらもそんなの読みたくはない。いい感じでとぼけたアプローチが、元女王様としてのさりげない気配りにも感じられる。
彼女はライターとしてはいいものを持っているので、今後の活躍に期待したい。
かつて名門のSMクラブ中野クイーンで女王様をやっていた
山田詠美 のように、直木賞目指せる可能性を秘めているのではなかろうか。
さて、その三大M男の詳細については「レポ」の誌面に譲るとしよう。
この3人のうち一人と僕はたまたま面識があり、がっちゃんの異名を持つ彼の証言を直接聞いたことがある。戦争の傷跡や終戦後のカオスのうねりに翻弄された彼の人生には、熾烈な暗い影も見え隠れする。
しかし、SMをやれたということは、ある意味で恵まれた境遇であったとも言えるだろう。
今よりは厳しい時代背景で順風満帆とはいかなくとも、好きなことができたのは幸福だ。
多くの、そして凡庸な人々は生きるのに精一杯で、ヘンタイをやるゆとりがない。
いかなる状況下においても、自己を充実させようとする強い意識はこの3人に共通している。
これはマゾヒストだからというのではなく、人としての生き方に普遍的な美徳である。
日本三景の美しさと同様、三大M男の恥ずかしき残像は、後世へと語り継がれるべき魅力にあふれている。
ウシロメタイ心の闇に、目も眩むような光をひろいながら歩んできた彼らの人生の記録は、僕の心を明るくしてくれた。
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最近、ご無沙汰。
確かに
ありそうです。