
昔のSM雑誌を見ていると、ある興味深いことに気がつきます。
緊縛写真の女性モデルは素顔をさらしているのに、M男を責める女王様は仮面をつけたり、目線に黒スミ処理などをして顔がわからないようになっている。
もっとも奇譚クラブの
春日ルミ などは例外中の例外で 僕がここで言っているのは昭和50年代(1970年後半から80年代前半ぐらいまで)の、比較的新しいSM雑誌についてです。
内容的にはまだまだ「団鬼六」的に女性が責められる図式が主流の時代。
M男の読者を満足させてくれるようなイメージは希薄で、女王様は原則として顔出しNGの場合がほとんどでした。

「SMフロンティア」1980年 1月号(三和出版)
これは、M女役には(実際にはMでなくても)モデルとしてのプロが存在していたのに対し、女王様役には(S性はあっても)素人を起用していたことが多かったためだと思われます。
当時はグラビア撮影でプロとして女王様役をこなせる人材がいなかった。
プロと呼べるのは数少ないクラブ女王様ぐらいですが、SM自体がまだ市民権を得ておらず、SMクラブの女王様に気安くモデルをお願いできる状況にはなかったのでしょう。
SMセレクトの「拝啓クイーンローズ様」シリーズでは、初代こそ中野クイーンから手配されていましたが、後の歴代クイーンはM女モデルが女王様役として登場し、皆マスクをつけていました。
六代目の
秋川瑞枝 などは
M女役 で人気のあったモデルだったので、珍しく素顔でも登場できたケースです。

M女はつまり「ヌードモデル」。であればこそ可能であった全裸女王様。当時はよくみられた。
プライベートでひっそりとセッションを行う本格派のS女性が、表舞台には立つことはなかった。
さらにM男というのは、SMという文化の中では最もおぞましい存在であり、その相手役を務める女王様というのも微妙なポジションだったと言えるのかもしれません。

1970年代までのSM雑誌では、セレクトなどの例外を除けばM男向けの企画は稀であり、カラー・グラビアなどは皆無。せいぜいモノクロの見開き2ページ程度のスペースしか与えられていなかった。
M女役でグラビアを飾るのは誇らしい実績となりえても、女王様イメージには不名誉とはいわないにしても、どことなく「ウシロメタイ」という雰囲気があったように思います。
女性の羞恥心という見地では、M女役で責められる姿のほうが恥ずかしいような気がしますが、日活ロマンポルノ映画「花と蛇」のヒットで、谷ナオミのような女優が脚光をあびていた時代です。
こういう言い方は心苦しいのですが、当時のステロタイプを敢えてわかりやすく表現してみるなら、
M女役モデルには可能性として「(ポルノ)女優」への輝かしい道が開けているけれども、
女王様はキワモノ的扱いで、ただの変態で終わってしまう。 それが70年代の価値観でありました。
男はSが当たり前。女性はセックスでもSMでも責められる立場が初期設定です。
男を責める痴女のようなイメージは変態コミュニティでも異様とされ、忌み嫌われる。
惨めな変態マゾ男との2ショットは、M女役で責められる姿よりも抵抗があった。
だから、素顔を隠していたのではないでしょうか。

乳房は見せても、顔はみせない乙女心...
キャリアとして「女王様」を演じた記録を残したくなかった。
ところが80年代に入ってくると、だんだん女王様も美しい素顔を見せてくれるようになります。
AV業界でも影が薄かったSMが、立花冷子や北川繚子、シャネルら初期のパイオニア達の努力により、真の「女王様」の存在感が全国的に浸透していきます。
それまで脇役だった女王様が陽のあたるスターダムにのし上がっていく。
黒木香 の「SMっぽいの好き」(1986年)がヒットし、中野クイーン出身の元女王様
山田詠美 の作家デビューもこの頃です。
こうした時代の勢いが、後進のアイドル女王様の快進撃をバックアップしました。
少数派と思われていたM男市場が開放され、SMにおける「女王様×奴隷」というジャンルが確立されたのです。
性風俗ビジネスの現場においても、マゾヒストの魂を癒す救世主として、
朝霧リエ のような意識レベルの高いカリスマ女王様も登場してくる。

メディアでの女王様の扱いも変化し、司書房の「ミストレス」や三和出版の「女王様バイブル」といった専門誌までも出版されるようになりました。
かつては女王様として素顔をさらすことが汚名であった時代を知る者としては、万感の思いが込み上げてきます。
さらに、SMバーなどでも現役のプロ女王様がホステスとして相手をしてくれるケースもあり、会いに行けるAKB48のような女王様もいらっしゃいます。

今やSMクラブ所属の女王様がグラビアを飾ることがステイタス・シンボルとなり、昔の価値観はコペルニクス的に転回したと言えるでしょう。
ピチピチギャル(←死語?)が女王様になる現代 ピンクリのたまきんと

↑
70年代ならこのような2ショットはあり得ない?
M男もいつの日か、素顔をさらすことが誇らしいと思える時代が来るのでしょうか...?
【関連エントリー】
■ カリスマM男優
- 関連記事
-