我々は夢と同じ物で作られており、我々の儚い命は眠りと共に終わるシェイクスピア 「テンペスト」(あらし) 第4幕第1場 プロスペローの台詞 まぁ、女王様にとってはいい迷惑というか、
「ふざけんな!」っていう話です。
いわゆる「お薦め映画」とか、観て欲しい映画ではなくて、「観ていて欲スい」映画。
勝手にほざいてな!って声が聞こえてきそう...(>_<)
ほざきます。
例えばのはなし、リビングルームで女王様がアールグレイの紅茶でもお飲みになりながらくつろいでいらっしゃる時、テレビ画面に映し出されているのが通販のダイレクトショッピングやバラエティ番組だったりするとがっかりすると思うのです。
もちろんご本人が好きな番組を見てリラックスされるのが一番です。
それでかまわないのですけど、奴隷の立場としておそばにお使えする場合、女王様には室内でもハイヒールを履いていてもらいたいとか、きつめのメイクで見下して頂きたいなどというこちら側の勝手な願望なり妄想の一つとして、女王様がご覧になられる番組のコンテンツにもこだわりがあったりする。
映画の場合、ハリウッドの娯楽大作や、インディーズ系のシブメの佳作でもなく、
「ミッドナイト・イン・パリ」がいいなぁ〜 と思うわけです。
女王様がこれをウットリとご覧になられている姿を想像するだけで、もう逝ってしまいます。
というのはウソですが、マゾヒストの身勝手な妄想力というのは、それぐらいにたくましい。
夢に恋するのはマゾヒスト。
もっとわかりやすく言うなら、女王様が普段一人の人間としてどれほど平凡で、韓流ドラマや芸能ワイドショーが大好きな女子でも、奴隷の前では優雅な貴婦人のように振る舞っていて欲スいということ。
よく言われることですが、M男や奴隷にとって女王様は完璧に美化されている。
その理想像からズレてしまうと、崇拝の対象外になってしまう。
逆に、M男側はというと、自分の理想像からはかなり遠い存在でもいい。
つまり、なりたいのは良き父親であったり、ノーマルな夫や彼氏であり、あるいは実際は冴えないバツイチオヤジでも、かっこいい草食系男子でも、ひとたび女王様の前で裸になる時、ドロドロのマゾモードで心もまる裸になる。
理想と現実のギャップが大きければ大きいほど、マゾの心は宇宙の森羅万象の中へと解放されるのです。
M男の分際で「ミッドナイト・イン・パリ」なんていう粋な映画を観てはいても、結局は変態マゾである事実の方が重たい。
だからマゾヒストは夢に恋する。
女王様から「オマエ、ちょっといい映画観てイイ気になってるけど、実際は変態M男なのよね〜」とバカにされることで、日常生活で窒息しかかっている精神が息をふきかえす。
化けの皮が剥がれるのは、M男だけでいい。
ウディ・アレンの最新作「ミッドナイト・イン・パリ」は、21世紀の今風の映画にしては驚くほどクラッシックな作品でした。あり得ない夢物語といってもいいくらい、ロマンティック。
はたして今の若い人たちにウケるのだろうかと心配になってしまうよ。
アレンの作品はたいていそうですが、これがきちんとウケるためにはある程度の教養が必要。
西洋の近代絵画や、20世紀初頭の文学(
ロストジェネレーション)、音楽、映画など当時の前衛芸術の知識やウンチクがあればあるほど面白い。次から次へと登場してくる作家や画家などの名前や人間模様を知らないと心ゆくまで楽しめないかもしれない。
ピカソやドガ、アーネスト・ヘミングウエイやガートルード・スタイン、スコット・フィッツジェラルド、ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ、マン・レイ、コール・ポーターなど蒼々たる顔ぶれで、常識的に彼らの名前ぐらいはご存知かと思いますが、その程度では浅い。
顔まで知ってないと(^^)
ヘミングウエイを演じるコリー・ストールと、本物のパパ。
よくもまぁこれだけ似ている役者をキャスティングできたものだ そして彼らの作品を読んだことがあり、聞いたことがあり、絵画なら作品を見知っているのが望ましい。
中学生の時、夏休みにペーパーバックで「老人と海」を読み、映画「誰がために鐘はなる」や「武器よさらば」を見ていた僕のような世代にはたまらんでしょう。
ジャン・コクトー主催のパーティで「♪ Let's do it, let's fall in love」が歌われているのに涙し、ダリが登場したシーンでは爆笑してしまった。
サルバドール・ダリ(本物) ダリの横顔や芸風を知ってるのと知らないのとではここでのウケが違います。
ダリ役のエイドリアン・ブロディ 似すぎなんだよ(^^)シュールなくらい 後半のムーラン・ルージュでフレンチカンカンのダンスシーンがあるんだけど、じゃ次に登場するのはロートレックかな?と先読みすると次の瞬間当たった時にはアレンに勝った気がした。
(まぁ、ありがちな展開で誰でもわかるレベルかも)
「そんなの知りません(>_<)」っていう若い人でも、もちろん感動できる物語になってはいますが、こういう作品を楽しめる自分の年齢に、えせ文化人レベルの知識にちょっとだけ優越感を味わえる大人の映画と言えるでしょう。
この映画に登場するペダンティックなポール(主人公のフィアンセの男友達、マイケル・シーン)みたいなヤツはいけ好かないけど、自分がそうなることの快感はちょっとだけあったりする。
知識をひけらかすのはみっともよくないけど、心の中で「知ってるもんね(^^)」とほくそ笑むのは楽しい。
時事ネタではないですが、サルコジ前仏大統領夫人がカメオ出演しているのにもびっくりした
(ロダン美術館のガイド役)
それとやっぱりウディ・アレンだけに脚本が素晴らしいよねっていう。
(アカデミー脚本賞を受賞) ストーリーというよりも、彼の場合は役者に言わせる台詞が命という気がする、昔から。
1920年代のパリを中心に活躍した芸術家たちの生の声が、アレンの脚色で生き生きと蘇る。
この映画で聞けるヘミングウエイのスクリプトは声に出して読みたい英語です。
本当に夢のような映画で、実際に夢見がちな気分を堪能させてもらえる。
シェイクスピアが戯曲「テンペスト」で書いているように、僕たちは夢と同じ素材で出来ているんだということを実感できました。
さあ、女王様よ、鞭を捨てよ、映画を観よう!
「ミッドナイト・イン・パリ」で夢を...
この映画を見終わった後で、僕にも夢を見させてくれたら最高です。

打て、女王様、あいつの心を癒してやれ!
ルー・リード「ヴェルベット・アンダーグラウンド」
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楽しく読ませてもらってます。
ダリのキャスティング、笑えました。似過ぎ。
バゲットを頭にのっけて歩いていてほしい。
アレンの作品はかみさんが好きでいつも誘われますが、見たのは実は印象に残ってなくてどうにも。
これはチェックしておきます。